親の介護が始まると、真っ先に立ちはだかるのが「お金をどうするか」という問題です。おむつ代、通院の交通費、デイサービスの自己負担、施設の入居費用——一つひとつは小さくても、月末に通帳を見ると重さがじわじわ効いてくる。それなのに、いざ「兄弟でどう分けようか」と切り出そうとすると、言葉が喉元で止まってしまう。そうやってお金の話だけが後回しになっているご家庭は、決して少なくありません。
気づけば近くに住む一人だけが月々の支払いを立て替え続け、ほかの兄弟は連絡すら来ないまま「任せきり」になっている。逆に、親の口座から誰が何にいくら使っているのか誰にも見えず、聞くに聞けない疑いだけが静かに積もっていく——そんなケースも珍しくありません。お金の問題は、口に出さずにいるほど、いつの間にか感情のもつれへと形を変えていきます。だからこそ、こじれる前に「決め方」と「記録の残し方」を共有しておくことが、家族関係を守る一番の近道になります。
「長男が見るものでしょう」「同居しているんだから」——悪気のないひと言が、後々まで尾を引く最初のつまずきになりがちです。法律上、子どもには親を扶養する義務があります出典:法務省(民法における扶養義務に関する一般的な解説)https://www.moj.go.jp/が、それは「収入や生活状況に応じてできる範囲で」というもので、誰か一人が全額を負うべきと定められているわけではありません。あくまで一般的な考え方であり、最終的にどう分担するかは、それぞれの家庭が置かれた事情によって変わってきます。
金額を決める前に共有しておきたいのは、「介護費用は本来、まず親自身のお金(年金・貯蓄)でまかなうのが基本」という出発点です。ここが揃わないまま「誰がいくら出すか」だけを話し合うと、話は堂々巡りになりがちです。まず親の資産を確認し、そのうえで足りない分を子どもたちで補うという順番にすれば、議論の土台がぐっと整理しやすくなります。親の資産状況によって取れる選択肢は大きく変わるため、ここは気まずくても、早いうちに兄弟で情報を合わせておきたいところです。

分担の方法に「これが正解」というものはありません。ただ、実際に多くの家庭で使われ、納得感を生みやすいパターンはいくつかあります。「うちはどれに近いだろう」と考えながら、話し合いのたたき台として使ってみてください。
親の年金・貯蓄を介護費用に充てるのが基本です。子どもの負担は「足りない分だけ」と考えると、過度な持ち出しを防げます。親のお金をいくらまで使うかも、最初に兄弟で合意しておきましょう。
均等割りが必ずしも公平とは限りません。収入や家庭の事情に差があるなら、無理のない範囲で割合に差をつける考え方もあります。金額より「それぞれの納得」を優先するのがコツです。
近くに住んで通院付き添いや手続きを担う人と、遠方で関われない人。同じ「負担」でも形が違います。お金を多めに出す代わりに手は出せない、など役割で調整すると不公平感が和らぎます。
その都度精算するのは手間も摩擦も生みます。月の介護費の目安を出し、各自が決めた額を共通の口座に入れる方式なら、立替の偏りや「言った言わない」を減らせます。
どの方法を選ぶにせよ、一度決めたことがそのままずっと通用するとは限りません。介護の状況は、思っている以上に変わっていきます。要介護度が上がれば費用も増え、施設入居となれば負担は跳ね上がります。半年に一度など、見直しのタイミングをあらかじめ決めておけば、状況が変わったときにも慌てずに済みます。
介護費用を親の年金や貯蓄からまかなう場合、最初に決めておきたいのが使い方のルールです。どれだけ誠実に管理していても、記録が残っていなければ、後になって「使い込みではないか」と疑われ、相続の場面で大きなトラブルに発展することがあります。日々の支払いを担い、お金を預かっている人自身を守るためにも、ルールは欠かせません。
①親の介護費用は、親専用の口座で管理する。自分のお金と混ぜない。②使ったお金は必ず用途を記録し、領収書を残す。少額でも省略しない。③定期的に兄弟へ収支を共有する。聞かれてから出すのではなく、こちらから開示する。——この3つを守るだけで、「見えない」が生む不信感の多くは防げます。あくまで一般的な目安であり、判断に迷う場合は専門家に確認してください。
なかでも③の「こちらから開示する」姿勢は重要です。聞かれる前に自分から見せる、というだけで、ほかの兄弟は口を出しにくくなり、結果としてお金を管理する人自身の立場も守られます。隠すつもりが少しもなくても、共有がなければ「もしかして」という疑念は静かに生まれてしまうものです。透明性こそが、揉めない最大の予防策です。
「記録」と聞くと、几帳面な家計簿のようなものを想像して身構えてしまうかもしれませんが、難しいことは必要ありません。介護で疲れているときに、細かい帳簿づけを続けるのは現実的ではないからです。多少雑でも、無理なく続けられる方法であることのほうが、いざというときずっと役に立ちます。
最低限押さえておきたいのは、「日付・金額・何に使ったか・誰が払ったか」の4点です。ノートに手書きでも、スマホの家計簿アプリでも、共有のスプレッドシートでも構いません。領収書はその月ごとに封筒へポンと入れておくだけでも、あとで見返したときの安心感がまるで違います。兄弟で1つの表を共有できれば、誰がどれだけ立て替えているかが一目で分かり、精算の話し合いで気まずい思いをする場面もぐっと減ります。
こうした記録は、日々の精算のためだけにあるのではありません。将来、相続が発生したときに「介護に多くのお金や手間をかけてきた人」の貢献を示す材料にもなり得ます。記録の扱いは家庭ごとの状況によって異なるため、相続まで見据えて残し方を考えておきたい場合は、早い段階で専門家に相談しておくと安心です。
お金の話は、どれだけ言葉を選んでも、感情がぶつかってしまうことがあります。「あの人は楽をしている」「自分ばかり損をしている」——一度そんな思いが胸に芽生えると、それまで普通に話せていた相手とも、冷静に言葉を交わすのが難しくなります。そこまで来てしまったら、無理に家族の中だけで決着をつけようとしなくていいのです。
地域包括支援センターには、介護にまつわるお金や家族間の調整について相談できる窓口があります出典:厚生労働省(地域包括支援センターの相談窓口について)https://www.mhlw.go.jp/。費用の負担を軽くできる公的制度を教えてもらえることもあり、無料で利用できます。また、相続や財産管理まで絡む深刻な対立になってしまった場合は、弁護士や司法書士など専門家に間に入ってもらうことで、感情を横に置いたまま話を前に進められることもあります。第三者に頼ることは、決して家族の失敗ではありません。むしろ、これ以上関係をこじらせずに済ませるための、賢い選択です。
費用の分担で兄弟との話し合いが行き詰まったときは、LINEで相談するという方法もあります。