親が転んで歩きにくくなった、同じことを何度も聞くようになった、退院の日が迫っているのにこの先どうすればいいか分からない——。そんな出来事がきっかけで、初めて「要介護認定」という言葉に向き合うことになったご家族は少なくありません。デイサービスを使うにも、訪問介護を頼むにも、車いすや手すりをレンタルするにも、まずはこの認定を受けることが介護保険サービス利用の入り口になります。
とはいえ、「どこに申請すればいいのか」「何が必要なのか」「どのくらい時間がかかるのか」は、いざ自分が当事者になってみないと分からないものです。仕事や自分の家庭のことを抱えながら、急に親の介護の窓口役を任されて戸惑っている方に向けて、この記事では要介護認定の申請から認定までの流れを、ひとつずつ丁寧に整理してお伝えします。なお、制度の細かな運用は自治体によって異なる部分があるため、最終的には市区町村の窓口でご確認ください。
初めての申請では、窓口で何を聞かれるのか、何を用意すればいいのか、想像がつかなくて当たり前です。次の章から窓口・持ち物・調査当日の流れを具体的に説明していきますので、まずは大まかな道筋をつかむところから始めてみてください。
「要介護認定」という言葉を初めて聞いて、何のことか分からなくても当然です。これは、介護保険のサービスを使うために「その人にどのくらいの介護や支援が必要か」を公的に判定する仕組みのことです。判定の結果によって、「非該当(自立)」「要支援1〜2」「要介護1〜5」のいずれかに区分され、区分ごとに利用できるサービスの種類や、保険でまかなえる利用限度額の目安が変わります。(出典:厚生労働省|介護保険の要介護度区分)
原則として65歳以上の方が対象ですが、40〜64歳でも、がんの末期や一定の特定疾病に該当する場合は申請できるケースがあります。(出典:厚生労働省|介護保険の対象となる特定疾病)「うちの親はまだそこまでひどくないから、対象にならないかもしれない」と考えて申請をためらう方もいますが、対象になるかどうかは公的な判定を受けてみないと分からないことがほとんどです。家族が線引きをする必要はなく、まずは後述の窓口に電話で聞いてみるだけでも構いません。
要介護認定は、申請した翌日に結果が届くようなものではなく、訪問調査や審査を経て段階的に決まっていきます。「今どの段階にいるのか分からない」という状態がいちばん心細いものですが、あらかじめ流れを知っておけば、今どこまで進んでいるかが見えるようになります。一般的な流れは次のとおりです。
申請先は、市区町村の介護保険担当窓口か地域包括支援センターです。申請書のほか、介護保険被保険者証などが必要になります。本人が入院中だったり足腰が弱っていたりして窓口に行けなくても心配いりません。家族や地域包括支援センター、ケアマネジャーが代わりに申請できる場合があります。
市区町村の調査員が自宅や入院先を訪れ、本人の心身の状態や暮らしぶりを聞き取ります。立ち上がりや歩行、食事、着替え、もの忘れの状況などを確認していく内容です。本人が調査員の前では『まだ一人でできます』と気丈に振る舞ってしまうことも珍しくないため、家族も同席し、普段の様子を横から補足すると実態が伝わりやすくなります。
本人のかかりつけ医が、病気や心身の状態についての意見書を作成します。この依頼は原則として市区町村から医師へ直接届くので、家族があちこち手配して回る必要はありません。ただし、ここ数年病院にかかっていない、かかりつけ医と呼べる存在がいないという場合は、窓口に相談すれば案内してもらえます。
訪問調査の結果と主治医意見書をもとに、コンピュータによる一次判定と、専門家による介護認定審査会での二次判定が行われ、要支援・要介護の区分が決まります。この段階は家族が何か手続きをする必要はなく、ただ結果を待つだけの期間です。何もできないもどかしさを感じるかもしれませんが、通知が届くまでは無理に動かず待っていて大丈夫です。
申請からおおむね30日程度を目安に、認定結果が郵送で届きます(混雑状況などにより前後します)。(出典:厚生労働省|要介護認定の手続き)ポストに届いた通知を見て、区分の数字だけが目に入って不安になる方もいますが、結果が出てからが本当のスタートです。ケアマネジャーや地域包括支援センターと一緒に、実際に使うサービスの計画づくりへ進んでいきます。
このように、申請してから結果が届くまでには一定の時間がかかります。「今すぐサービスを使いたいのに」と焦る場面もあるかもしれませんが、だからこそ早めに申請しておくことが要になります。退院に合わせて在宅介護を始めたいときは、入院中から申請を進められることもあるので、退院日のめどが立った時点で、病院の医療ソーシャルワーカーにも一声かけておくと安心です。
申請の窓口は、お住まいの市区町村の介護保険担当課か、近くの地域包括支援センターです。「どこに電話すればいいのか分からない」というときは、市区町村の代表電話に「介護保険の申請をしたい」と伝えるだけで構いません。担当の窓口へつないでもらえます。地域包括支援センターは高齢者の総合相談窓口で、申請の手伝いから今後の相談まで幅広く支えてくれる、とても心強い存在です。
用意しておくとスムーズなものの目安は次のとおりです。忙しい合間を縫って窓口まで足を運んだのに、書類が足りず出直すことになっては大変です。自治体によって必要書類が異なるため、出向く前に一度電話で確認しておくと二度手間を防げます。
申請に費用はかかりません。(出典:厚生労働省|介護保険制度の概要)介護用品や通院で何かと出費がかさむ時期に、「これ以上お金がかかったら」と申請そのものをためらう方もいますが、その心配は不要です。なお、認定には有効期間があり、状態が変わったときは区分変更の申請や更新の手続きをすることになりますが、これらの手続きも窓口やケアマネジャーがサポートしてくれます。

認定区分は、必要な支援・介護の度合いに応じて分かれています。区分の名前だけを見ても実感が湧きにくいと思うので、あくまでイメージとして、おおよそ次のように捉えてみてください。実際にどのサービスをどれだけ使えるかは、区分や利用限度額、本人の状況によって変わるため、ここでは目安としてご覧ください。
要支援1・2は、日常生活はおおむね自分でできるものの、一部に手助けや見守りが必要な状態の目安です。介護予防を目的としたサービスや、生活の一部を支える支援が中心になります。要介護1〜5は、数字が大きくなるほど必要な介護が重くなる目安で、訪問介護やデイサービス、福祉用具のレンタル、施設の利用など、使えるサービスの幅が広がっていきます。
大切なのは、区分の数字そのものに一喜一憂しすぎないことです。「思っていたより低い区分だった」とがっかりすることもあるかもしれませんが、区分はあくまでサービスを組み立てるための出発点であり、本人と家族の暮らしをどう支えるかが本当の目的です。具体的にどんな組み合わせが合うのかは、ケアマネジャーと相談しながら決めていくことになります。
申請しても「非該当(自立)」と判定され、介護保険のサービス対象外となることもあります。「これだけ手間をかけて申請したのに」と拍子抜けしたり、これからどうすればいいのか分からなくなったりするご家族も少なくありません。けれど、それで支えがゼロになるわけではありません。
多くの市区町村には、介護保険の対象にならない方でも使える地域支援事業や総合事業といった枠組みがあり、体操教室や見守り、生活のちょっとした手助けなどを受けられる場合があります。(出典:厚生労働省|地域支援事業・介護予防日常生活支援総合事業)内容は自治体ごとに異なるため、まずは地域包括支援センターに「非該当だったが、何か使える支援はないか」とそのまま聞いてみてください。うまい聞き方を考える必要はありません。また、その後に状態が変われば、改めて申請して認定を受けることもできます。一度の結果で終わりだと思わず、暮らしの変化に合わせて何度でも見直していけるものだと知っておいてください。
ここまで流れをお伝えしてきましたが、実際には「思っていたより複雑」「親が申請を嫌がる」「仕事をしながらでは手が回らない」といった壁にぶつかることも少なくありません。特に、本人が『まだ人の世話になるほどじゃない』と申請自体を拒むケースは多く、説得だけで疲れ果ててしまうご家族もいます。そんなときに頼れるのが、ケアマネジャー(介護支援専門員)と地域包括支援センターです。
地域包括支援センターは、申請のサポートから今後の見通しの相談まで無料で対応してくれる、地域の総合窓口です。認定を受けた後は、ケアマネジャーが本人や家族の希望を聞きながら、サービスの計画(ケアプラン)づくりや事業者との調整を担ってくれます。仕事や自分の生活を削ってまで一人で抱え込む必要はありません。分からないことがあれば、その都度電話一本でプロに聞いてしまって構いません。
申請の進め方や相談先の選び方で迷ったときは、LINEで相談するという方法もあります。